城戸賞
受賞者の声

第49回城戸賞大賞 鈴木香里「捨夏」

鈴木香里 「捨夏」はごみ屋敷に住む30歳の主人公が清掃のプロと二人三脚で部屋を片づけていく中で、これまで背負ってきたものを清算していく物語です。生きることを諦めないで。この世は捨てたもんじゃないよ。という想いを込めて書きました。
ちなみに私も去年、主人公と同じような理由で職を失いました。当時の空しさや中途半端な己への怒りなども素直に主人公に託しました。そんな作品がたくさんの方に読まれ、審査され、大賞に選ばれましたこと、未だに驚いています。
授賞式の壇上から、岡田惠和さんのファイナリストたちへの「自信を持ってください」「誇りに思ってください」という言葉を励みに、これからも脚本つくりを粛々と続けていきたいです。そして書いて終わらず、映像化に向けても奔走していきたいです。
最後になりますが、私の尊敬する大好きな脚本家・山田太一さんのご冥福をお祈りするとともに、大賞を捧げる想いでこれからも精進してまいります。


第49回城戸賞準入賞 長濱亮祐「道々、みち子」

長濱亮祐

「ダメだね、パパは。コソコソする人生だから」数年前、電車にいた母と娘らしき二人から聞こえてきた言葉です。「バラ色の人生」「傷だらけの人生」、人生にもいろいろありますが「コソコソする人生」こんな嫌な響きの人生があるでしょうか。パパが具体的に何をしたのかは知りませんがその言葉は僕の心を突き刺しました。まるで僕の人生のようだと思ったのです。

成功した脚本仲間の陰口を言う、甥っ子にお年玉をあげたくないので正月を避けて帰省する、帰省したらしたで親にこっそり小遣いをねだる。とにかくコソコソと生きてきました。

昨年、幸運にも城戸賞の最終に残ることができました。授賞式に出て感じたのは嬉しさよりも悔しさでした。自分にまだこんな気持ちが残っていたのか、そう思いました。次は賞を取ろう。そう思って書きました。準入賞をいただけたことで少しだけコソコソしなくてもよいかなと思った次第です。これからも書き続けようと思います。

 

第49回城戸賞佳作 尾ヶ井慎太郎「わが友」

尾ヶ井慎太郎この度は『わが友』に佳作をいただき、誠にありがとうございます。審査していただいた皆様に深く感謝申し上げます。
がむしゃらに脚本を書き続けた20代、そしてハリウッドで脚本を一から学び直した30代、ようやく努力が実を結びました。長い間日本のシナリオからは離れていたのですが、アメリカのシナリオコンクールでグランプリを頂いた後、「もしかして今なら日本のシナリオでも良い作品が書けるかもしれない。」と思い立って執筆したのが今作『わが友』でした。
『わが友』は作家太宰治の半生を、師匠である井伏鱒二との友情を通じて描いた作品です。今まで語られ尽くした太宰を敢えて取り上げ、傾向や対策も全く考えず、ただひたすらに自分が伝えたいテーマ、物語、人物を描いた作品がこうして評価され、誠に幸甚に存じます。今回の結果に満足せず、より一層精進していく所存です。

 

第49回城戸賞佳作 キイダタオ「シュレディンガーの恋人たち」

キイダタオこの度は佳作をいただき心より感謝申し上げます。2年前、最終選考に初めて残していただいてから、どうにか今度こそという一心で再チャレンジを続けてきて、ようやく少し一矢報いることができました。とはいえ入選、受賞、あわよくば映画化を目指していたので、嬉しい反面悔しいなぁという気持ちがないと言えば嘘になります。
拙著「シュレディンガーの恋人たち」は量子力学におけるシュレディンガーの猫の概念に着想を得た物語です。あらすじには宇宙消滅の危機とか世界を救うとか、仰々しい言葉が並んでいますが、本質としてはある2人の友情か恋かという曖昧な関係性が確定していくまでの揺蕩い、青春の終わり、そして大人になるということ、その過程で得るものとこぼれ落ちるもの、そんなエアポケットのような、何でもないようで特別な時間について思いを巡らせながら執筆したものです。かつて若者だった人、キラキラも燻りも全て含めて青春という時間の中にいた人、そういった全ての人たちにこの物語が届くといいなという願いを込めて。

 

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