第50回受賞作品と受賞者コメント
- 「祝日屋たちの寝不足の金曜日」 山口 耕平
- 「受賞するぞ!」と思って応募したものの、受賞の連絡をいただいた時、喜びよりも驚きがあまりにも大きく、自分自身が本当に受賞するとは思っていなかったことに気づきました。まだ脚本の勉強を始めたばかりで「こんな楽しいツールがあったのか!」と、今はただ夢中に作品を描いている状況だからかもしれません。
思えば昔から空想することが大好きで、朝礼中に忍者が現れたりホワイトハウスにヘリで降り立ったりと、色々な物語を思い描き、それを表現するために脚本家を目指しました。しかし、肝心の「城戸賞を受賞したら」という空想が足りず、今は頭が真っ白の状態です。何をどうしていけば良いのかまだよく分かっていませんが、これからは映像化に向けてこの作品の主人公達のように走り回りながら、歴史ある賞をいただいた脚本家として恥じない活躍ができるよう、自分の人生のシナリオもしっかりと描いていきたいと思います。
- 「ひらがなでさくら」 宮崎 和彦
- この度は名誉ある第50回城戸賞佳作をいただき、誠にありがとうございました。佳作はどうしても悔しさが残る結果ですが、自分の未熟さを認めつつ、歩んできた道がここまでは間違っていなかったことを素直にうれしく思います。
本作は1948年(昭和23年)に一説では日本語の存亡を賭けて実施された「日本人の読み書き能力調査」を書いた作品です。何年か前に見たテレビ番組でこの調査を知ったものの、すっかり忘れていた頃に駅の階段でふと思い出した日から、最後の「3文字の日本語」を目指して1年半ほどかけて書きました。
シナリオ・センターをはじめ、たくさんの方々に御礼を申し上げなくてはいけないのですが、その思い出した日に開催されていたWBC日韓戦で大活躍された侍ジャパンのラーズ・テイラー=タツジ・ヌートバー選手から主人公「達治」の名前を勝手に頂戴したため、まずはこの場をお借りしてヌートバー選手に心より御礼申し上げます。
- 「ファビアンは宇宙の果て」 峰岸 由依
- このたびは佳作に選出いただきありがとうございます。審査いただいた皆さまに心よりお礼申し上げます。
この国に生を享けた者として、かつて我々とまったく同じ人間たちが聖戦に適応し(そして国民性として止め時を見失い)、また多くの作家が好感を持って戦争に協力したという事実は、当時生まれていたら自分は無邪気な軍国少年だっただろうという確信とともに、逃れえぬ恐怖としてつねに脳裏のどこかにありました。
戦争を経験していない自分が描いてよい題材か疑いつつも、今回どうしても描きたさを抑えられず、せめて人として最低限の倫理観だけは、人間らしさの尊重だけは受け手に届かせられるようにと縋りながらなだれこむように執筆した作品です。
今見返すと随所に甘さを感じ、悔しさを覚えるとともに登場人物に申し訳なく、やはり脚本家は自分の書いた脚本に対し一番冷徹でなければならないと思いを新たにしております。最後になりますが、言葉が無力になる場所で、魂を傷つけられているすべての人びとが、一日も早く好きな時に映画を観、あるいは映画を作れるようになることを、切に祈ります。
- 「ゼクエンツ」 森川 真菜
- この度は城戸賞佳作に選出いただき、誠にありがとうございます。
初めて長編シナリオを書く際に、選んだのがこのテーマでした。タイトルの「ゼクエンツ」は、同じ音型を音高だけ変えながら繰り返す「反復進行」とも言われる音楽用語です。そんな風に、同じように見える日々でも段々と変わっていって、最後には全く別のものになっている。そんな願いを込めてつけたタイトルです。このシナリオ自体も、社会と共に変わっていくべきだと今でも感じています。また授賞式にて、井上由美子さんに仰って頂いた言葉が忘れられません。自分にしか書けない物語を今後も書いていこうと決意しました。
最後に、この物語を一旦は書き終えることが出来たのも、多くの方々に読んで頂いたおかげです。脚本というものを一からご教示くださった港岳彦さん、そしてそのご縁で今回の拙作を拝読頂いた皆様、脚本の道を志す同志の方々に、心より感謝申し上げます。