城戸賞50周年に寄せて
ずっと城戸賞などわたしには無縁な賞だと思っていた。雲の上の賞というか、応募したとてレベルが高過ぎて相手にもされないだろうと。それが応募することになったのは、これが箸にも棒にも掛からなかったらもうシナリオなんか書くのはやめようとの思いで何度となく改稿を重ねた作品のページ数がかなり長くなってしまい、その枚数を受け入れてくれるのが城戸賞しかなかったから。ダメ元どころか、ほとんどヤケクソでの応募だった。なので入選の知らせを受けた時は、ほんとうに驚いた。思わず「入選とは上から何番目なんでしょう?」などと聞いてしまったら「1番上です」と返されてまた吃驚。十数年間、いくつものコンクールに応募するも1次も通らぬ日々を繰り返し、腐りきっていた時期もあったが、そんなわたしの前にコンクールの中でも一番に光り輝く荘厳な扉が開いたのだ。この扉の向こうにはどんな未来が待っているのだろう? わたしは期待した。だが、その扉の向こうは何もない荒野だった――。コンクールに受賞すればデビューできるかもという以前はあった道標さえ消え失せたその荒野に半年ほど一人佇ずんだが、誰も助けに来てはくれなかった。わたしは途方に暮れた。だが、ここまで来たら行くも地獄、引くも地獄、恥も外聞もなく映画会社やプロデューサーにシナリオを送り付け、トークショーの会場にも押しかけシナリオを手渡した。自ら行動を始めたとき初めて「城戸賞」の凄さを知った。何人もの人が読んでくれた。その結果、幸運にも受賞作を映画化することができたのだが、デビューを焦るばかりにその映画は受賞作とは似て非なる映画になり、苦い思いも味わった。オリジナルにこだわって映画化すべきだったのでは、いまも折に触れて思うことではある。しかし縁とは不思議なものであの映画が公開されたからこそ、その後の様々な出会いにもつながり、わたしはいまも脚本を書き続けている。城戸賞には感謝しかない。
プロフィール
1974年1月25日生まれ。東京都出身。シナリオ講座受講後、講師であった脚本家・掛札昌裕氏に師事し、『クロス』で第39回城戸賞入選、同作を下敷きにした映画『クロス』(17)で脚本家デビュー。主な映画作品に『夜明けまで離さない』(18)、『銃』(18/共同脚本)、『にじいろトリップ』(21)、『海辺の恋人』(23)、『カタオモイ』(23)、『マッチング』(24/共同脚本)などがある。
宍戸 英紀
第39回入選
「クロス」